ヴィンテージ





チン、とグラスが澄んだ音をたてる。
突然呼び出され、何事かと思って皇帝の私室へ行ってみれば、葡萄酒を片手に寛いでいる幼馴染の姿。

「…私は忙しいのですが」
「そう言うな、どうせ只の残業だろう」

只、ではないから残業をせねばならないのだが。
言っても無駄な事は判っているので、黙って酌の相手をする。

「やれやれ、冷たい奴だな。一週間振りだってのに」
「貴方が呼び出さなければもう二週間は伸びていましたよ。その方が私には良かったのですが」

いきなりの呼び出しに、妙に慌てて動揺した自分が馬鹿のようではないか。

「ったく、口の減らん奴め」

つまらなさそうにグラスを呷って、ピオニーはぐい、と空になった其れをジェイドに差し出した。

「注いでくれ」

ジェイドは溜息を吐いて、半分ほどまで開けられていたボトルを手に取り、ソファへ歩み寄った。
鈍い光沢を放つ瓶から、とくとくと葡萄酒が注がれる。
グラスの丁度良いところまで酒が満たされると、彼はに、と嘲笑って言った。

「飲ませろ」

傲慢な笑み。

無言でグラスを引っ手繰り、暗紅の液体を口内に流し込むと、むせ返るような芳香が身体に満ちた。
強引に腰を引き寄せられ、葡萄酒が零れてソファに小さなしみを作った。
ソファに悠然と構えるピオニーの肩に手を添えて、目を伏せ、接吻ける。
彼はそれ以上動かず、されるが侭にジェイドの接吻けを受けた。

彼が最後の一口を嚥下したのを感じて、唇を離す。
同時に伏せていた目を開いて―――
間近で、目が合った。

その蒼い眼に射貫かれたように、息が、止まる。
瞬きも出来ず、頭蓋を包むように掌が回され、動くことも出来ず。
見下ろした、薄い唇がゆっくりと動いた。

「ジェイド」

全てを絡め取って堕とされるような、低く、掠れた声。
ぞっ、と背筋が粟立って、無意識に、こくり、と咽喉が鳴った。

そして、どちらからともなく再び唇を合わせた。

先程より深く、貪るように。
互いの口腔に残ったアルコールと、彼の熱い吐息が、ゆるゆると脳を痺れさせていく。
息苦しくなって呼吸をしようとしても、がっちりと頭を捕らえられ、更に下から追うように口を塞がれて。
腕を回し、金色の髪を掴んで引き剥がそうとしたが、まるで敵わず爪を立てるだけになって。



「ピ、オニ…」

悲鳴のように名を呼ぶと、ようやく息継ぎが許される。
が、力が入らず、其の侭彼の首に縋るように身体を預ける格好になった。

先程の真剣な眼は何処へやら、くつくつと、楽しそうにピオニーが笑う。

「何時ものパターンだな」
「…貴方は、本当に、」

恨みがましく睨み付けると、彼は意外そうに、至極真面目な顔で、言った。

「今更だろう?」

そうしてまた、くつくつと笑う。
確かに、今更だ、と。
判ってはいても―――ああ、駄目だ。
この人のこんな顔を見ては、何かを考える事が、何もかも無駄なことのように思える。



全てを絡めとって、飲み込み、包んで、ゆっくりと堕ちていく―――
ソファに沈められながら、ふと、そんなことを思った。










ヴィンテージ…形容詞 {極上の・旧いが最高級の・(行動・発言などが)いかにも〜らしい}









------------------------------

私的PJソング
yuniさん宅の「ミュージックアワー萌茶」に恐る恐る提出したブツです