おいで、一緒に寝ようね





一日の仕事を終え、寝る支度をして、ピオニーは寝室に入った。
うとうとしかけているブウサギ達を一匹ずつ寝かしつけようとして、 床に空いた穴――ジェイドの執務室へと続く抜け道に、人影があることに気付いた。

「…何やってんだジェイド」

人影は一度ビクリと身体を震わせ、おずおずと穴から顔を覗かせた。 何故かすっぽりと被ったフードには埃があちこちについており、大分長い時間、其処に居たであろう事が判った。

「…どうも。見つかりましたか」
「当り前だろうが。ほら、早く上がれ」

手を差し伸べると、ジェイドは戸惑ったように身を引いた。
そのままそそくさと、自力で穴から這い上がる。 そして心持壁際によると、そこで固まってしまった。
何故か、外套をきつく握り締めたままで。

ピオニーは如何した、と問おうとして、僅かにフードから覗くジェイドの目が、縋るような色を宿しているのに気付いた。



「…まさか、また、生えたのか?」
「……………その様です」



むすっと、ジェイドは肯定した。

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ぱさ、とフードを落とすと、白い物体がむくり、とフードの中から起き上がった。
それはジェイドの蜜色の髪の間から生えており、一見――否、如何見ても、某小動物の耳にしか見えないもので。
ふわふわとしたそれは事実柔らかく弾力があり、触れるとぴくり、とジェイドが反応するから、神経も繋がっているのだろう。
くん、と耳を引っ張ると、低い声で止めて下さい、と抗議された。

「久しぶりだな、コレ出たの」
「………」

そう、ジェイドに兎の耳が生えるのは、此れが初めてではない。
過去数度、同じ事が起こっているのだ。

「2週間、か?今回は結構期間が短かったな」

そして原因も、判っている。



「――そんなに寂しかったか」



紅い目がきっ、とこちらを睨んで、またすぐに不機嫌そうに反らされた。

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バロメータ、のようなものなのだろう。
大抵、自分が仕事で忙しく、逢いに行けない日が続いた時に起こる。 本人は認めたがらないが、要は「ピオニー不足」になる、ということらしい。
ピオニーは常に暇があればジェイドにちょっかいをかけに行っているが、それが途絶えると。 元々自分が行動しなければ皇帝と一軍人などそうそう会えるものではなく、 ジェイドの性格からしても向こうから「会いに来る」なんて仕事以外では有り得ないこと。

が、自分が忙しくなって構いに行けなくなると、
…寂しくなる、ようだ。

それが何故耳を生やす結果になるのかは謎だが、兎は寂しいと死んでしまうというから、 何らかの接点はあるのだろうと勝手に推測する。
プライドの高い彼の事、寂しいなど認められず、そのせいでフラストレーションが身体の方に影響を及ぼしたとも考えられる。 まあ、難しいことは判りようが無いが。
寝台に腰掛けたジェイドは依然押し黙ったままで、不機嫌オーラを発している。

それでも自分のところに来る辺り、自覚はしているのだろう。
そう考えると途端に愛しい気持ちになる。

「ジェイド」

むすっとした表情のまま、此方を向いた。

「――おいで」

出来る限り優しい声で呼んでやると、無言で側に寄ってくる。 腕を回し、肩を抱いて引き寄せれば、そのまましがみついてきた。 決して見られたくないとでも言うように顔を肩口に埋めてくる。
きっと情けない顔でもしているのだろう――耳がへなりと落ちているから。
髪を梳いてやりながら、耳元で囁く。

「今日は、一緒に寝るか」

こくん、と肩越しに頷いた後、寝るだけですよ、と小さく声が付け加えられた。 大分信用が無いらしい。
くつくつと笑いながら了承すると、拗ねたように身体を縮込ませた。

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今夜一緒に眠れば、朝には元に戻っているだろう。
そうしてまた、日常が戻る。

…今回の仕事はできるだけ終わらせて、またジェイドにちょっかいをかけに行こう。
放って置くと、また耳を生やしてしまうかもしれないから。

こうやって甘えてくる彼が見れるのも、悪くは無いけれども。










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yuniさん宅の「うさじぇ萌茶」に提出したブツ

うさじぇはいいですね…(何)

↓頭の悪い挿絵