微笑










「…バカか、お前は」

「そっちがね」


フ、と。…其れは、ほんの、微かな。


―――――この瞳の色を美しいと言ってくれた、あの時の笑顔には及ばなかった けれど。
あの時と同じ面影の、微笑み。


懐かしいと同時に、彼の其の表情を引き出した、金色の髪の青年に、ほんの少し 、妬心が涌いた。


振り降ろした刃が少しも鈍っていなかったと云えば、嘘になる。
目の前にいる少女を救いたかった事も、事実だけれど。





―――彼が、牢の中の自分を無垢な眼で見てくれた様に。
   自分も、彼を鎖から放ってやりたかった。





彼の義弟が飛び込んできた瞬間、そして彼の目が見開かれた瞬間。

―――負けた、と。

『ケイコク』は。確かに、彼を救ったのだと。そう思った。


「狂」


振り向くと、彼が、…あの時と同じ、真っ直ぐな瞳で、問うて来た。


「本当に、俺を殺さず帰すつもりか」


…其の眼差しは、空の様に澄んでいて。
此が鎖から解き放たれた、本当の彼の姿なのだろう。





―――――出来得ることなら。
自分が、彼を鎖から放ってやりたかった。





「…あぁ」










―――――ならばせめて。
其の瞳の光が、もう二度と、曇らぬ様に。










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